2009/02/01

シューベルトの遺言

1月31日、シューベルトの歌曲『冬の旅』を聴く。
Théâtre de la Villeのもうひとつのコンサート会場Les Abbessesで、こじんまりと居心地が良い。
日曜の午後にのんびり聴く室内音楽にぴったりである。

テノールは、外見のわりに若々しく張りのある声を持つWerner Güra。
ピアノは、かわいらしく軽い音を出すChristoph Berner。

シューベルトの死の前年に書かれたというこの『冬の旅』、失恋によって絶望した青年が孤独のうちに放浪をつづける、Wilhelm Müllerの暗く湿っぽい抒情詩を歌曲に仕立てたものである。
雪のつもった自分の頭が白く見え、死に近づいたと思ったが、その幻想も束の間、雪は溶けて、絶望したまま生きる残りの長い道のりを嘆く・・・

一体どれだけ暗いのか、と半ば楽しみにして行ってみたが、こころよく裏切られた。

木枯らし吹きすさぶ冬の旅路には、親密な逃げ場が欠かせない。
過ぎ去った幸福な日々、夢に見る春、光の踊る幻。
妄想と幻覚は、不幸にあってやけに美しく、魅力的である。

若い演奏家というせいもあるのか、乾いた孤独感よりも、自分の内側に逃げこむ時の親密な温もりと優しさが印象的。
蝶々の飛んでゆくのが見える気がする。

バリトンが歌うことの方が多いという『冬の旅』だが、この2人の演奏よりも、恐らくずいぶんと重みを増すだろうということは想像に難くない。
そうなると、自分に重ね合わせて書いたという、老いたシューベルトの姿が目に浮かぶのかもしれない。

が、話は青年の放浪であるので、この青臭い絶望もわるくない、かもしれない。

が、ベケットが愛した『冬の旅』は、バリトンのDietrich Fischer-Dieskauである。
やはり、の一言に尽きる。