2009/02/22

しんとろとろりと見とれる男

2月15日、国立劇場で文楽2月公演、『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』。

1部よりも、3部の『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)』の方が随分注目株だったようだが、日曜のせいか何のせいか、満席。

老若男女、フツーの若者も着物の奥様も、お弁当片手に和んでいる。
ほのぼの。

『鑓の権三重帷子』は、近松門左衛門六十五歳の時に書かれた姦通物、1717年竹本座初演。

初演前月の7月、松江藩の茶道役・正井宗味の妻とよと、同藩近習小姓役・池田文治が姦通したために、大阪高麗橋上で「妻敵討ち」するという実話がもとになっている。


伊達男の笹野権三は、茶道の兄弟弟子・川側伴之丞に姦通の濡れ衣を着せられ、武士の面目のためには、不義の相手おさゐの夫・浅香市之進に討たれることを選ぶ。
伴之丞の妹・お雪は権三と恋仲、愛娘の婿探しのつもりが、おさゐは権三に嫉妬、人妻であるおさゐに言い寄る伴之丞は権三に嫉妬。

コルネイユとラシーヌが渾然一体となったような悲劇の筋書きである。

それが、軽妙な語りと人形の動きによってなんとも滑稽に見えてくるのがたのしい。
浅香市之進留守宅の段、数寄屋の段の大夫を務めた重要無形文化財保持者、竹本綱大夫のおさゐが心地よくも憎らしい。
「第一私が恋婿、オホホホホ何と合点して下さんすか」、「イヤあるある」、「エエいやらしい手が穢れた」などなど、”これぞ女”という節回しである。

伏見京橋妻敵討ちの段は、出演者が多く華やかな盆踊りが背景にある。
鳴り響くお囃子はどことなく残酷な響きがする。
斬り捨てられる二人が哀れというよりは、ちょっとこわい。

日本の伝統芸能は、とかく目をやる場所に事欠かないということに気がつく。
そして人形は、生身でないぶん滑稽で、そら恐ろしいことが分かる。