2009/04/20

Pierre NOTTE × 鈴木康司

20日、恵比寿の日仏会館にて講演会"Comédie française hier et aujour'huit"を聴く。
中央大名誉i教授の鈴木康司とコメディ・フランセーズのsecrétaire généralであるPierre NOTTEの対談。

前半は350年の歴史を一気に説明するも、中世風の並列舞台の様子や、その後取り入れたイタリア式額縁舞台の様子を描いたものを見ることができたのは、なかなか面白かった。

灯油に芯を入れて火をつけただけの無数のフットライトがスカラムーシュを照らしていた。
当時ろうそくのシャンデリアだったわけだが、いつも疑問に思うのは、上演中うっかり、ろうが落ちてきたりしなかったのだろうか、ということ。たぶんしたんだろうな。
18世紀のおわりには反射鏡やケンケ燈の発明で進歩が見られたらしいが、1799年に劇場は火事で焼失しているのもうなずける当時の照明である。床や衣装にろうが垂れるくらい当り前か。
とはいえ、ケムそうだけれども、最初から最後まで火に照らされる芝居、一度観てみたい。
最近、オデオン座(『繻子の靴』)やコメディ・フランセーズ(『シラノ・ド・ベルジュラック』)では大がかりな炎の演出があって、その時は舞台の照明も消していたが、やはり火の光の揺らめきというのは特別な感興ををそそる。
明るすぎず、有機的な照明、というのもいい。

後半、ようやくノット氏が口火を切る。というか、話す場を与えられる。
爽やか美男、ずいぶん若そうに見えるが、Le Figaroいわく"Un dandy acide"。
質疑応答の際にちらりとその手腕を見せてくれる。
ある女性が、サルコジ政権になったことでコメディ・フランセーズにはどのような影響があったか、という質問をしたところ、

「今年からUbu roiがレパートリーに入ったよ」

と答えてニッコリ。
文化を解さない政治人間、というレッテルをはられ、長身の素敵な女性と「終始からみあって」新作のリハーサルを観に来た大統領より、同日に来たカトリーヌ・ドヌーブのお相手を務めるのに暇がなかったらしい。
実際、ノット氏はMoi aussi, je suis Catherine Deneuveという劇でモリエール賞をもらっている。

ノット氏によるコメディ・フランセーズのミニ情報:
①2006年、コメディ・フランセーズはオリヴィエ・ピイに依頼して、Les Enfants de Saturneという劇を書いてもらったらしいが、査読委員会はこれを斥けた。作品は2007年にActes Sudから出版されている。
②2002年にコメディ・フランセーズ入りした黒人俳優Bakary Sangaréが演じた『タルチュフ』のオルゴンに対し、100通以上の抗議の手紙が届いたという。今日でも、この劇場ではbienséanceが求められているし、存在するらしい。この人はピーター・ブルックのところにいた俳優。
人種問題は伝統を守るべきコメディ・フランセーズには避けがたい問題なのだろうか、L'affaire Koltèsなる事件も勃発。アラブ人の俳優がいない、という状況で『砂漠への回帰』を上演することへの抗議。
③現代フランス劇を取り入れる努力をする中で、VinaverやLagarceの劇は成功裏に終わったが、超・現代的な演出を施したコルネイユのL'illusion comiqueは、観客を取り逃がした。よくわからないものの中に理解できる部分を見出すのはいいが、理解している(と信じている)ものをゆがめられるのは許せない、という観客心理だろうか。
④2011年、新たに生まれ変わるため、リシュリュー劇場は休館します。