2010/01/27

Cercles/Fictions

1月27日:Bouffes du Nordにて、Jöel PommeratのCercles/Fictions
1990年に彼自身が立ち上げた劇団Compagnie Louis Brouillardによる上演。

直径10メートルほどの完全な円形のアクティング・エリアは腰高の壁に囲まれており、四方に入・退場の通路を設けてある。この劇場の普段の半円形部分に円形舞台が作られ、舞台部分は客席となっているわけだ。その円形エリアの頭上高くには、これまた円形のトラスが吊られ、ほとんど全ての照明がここに取り付けられている。
舞台はとにかく狭い上に、四方に設けられた客席から見られているため、一方向に向けた舞台装置を置くことは避けられている。この背景を持たない空間に、ある特定の場所の観念を与えていたのは、なかなか凝った照明である。円形の空間にさらに光の円を作って隔離された場所を想起させたり、光の帯で道を作り、細かく散らした光で深い森の内部を表現したりする。客席を完全な闇に沈めているため場内全体が暗く、かなり効果的なイメージができる。

一貫したストーリーはなく、数種類の状況を断片化し、次々と場面にスポットを当てていく。
暗闇にもかかわらず俳優と道具方のスマートな動きに加えて、絶妙なタイミングで暗転・場面転換するため、断片化された場面場面が絶えずテンポよく観客に降りかかってくる。
それぞれが人生における何らかの選択を迫られる瞬間で、濃密な一瞬一瞬を映し出している。
差しのべられた誘惑の手に自ら触れる瞬間や、人が人の心につけいる瞬間を見事にとらえていて、ぞっとしてしまう。間合いと台詞のスピードが合っていると、大した台詞でもないのに、すとんと心に落ちてくる気がする。
俳優たちは多くの部分を早口あるいは遅すぎるくらいのささやき声で語るが、小型マイクをつけることで、ささやきの質は乱されずに親密であると同時に探り合うような残酷な声の効果を生んでいた。

2時間を超える上演は長いと踏んでいたのに、テンポの良さと場面ごとの濃度の高さによって、飽きることもなくついていくことができた。
これだけ狭い円形空間のせいか、背中でも演技している俳優の努力の賜物か、いつにない臨場感が楽しめる上演だったと思う。