2009/07/17

プロペラ

一週間以上前になってしまったが、8日は東京芸術劇場でプロペラを観た。
野田秀樹の芸術監督就任の記念公演第一弾。
演目はシェイクスピア『夏の夜の夢』。
演出はエドワード・ホールで、15年来の野田の友人だという。

男ばかりの劇団で、ワイワイ・ガヤガヤ踊りながら古典の読みなおしを図る・・・
そういう触れ込みだったと思うのだが、意外や意外、とってもお上品な仕上がり。
むさ苦しい体つきの男性陣もいるけれど、パック役・タイターニア役の彼らは綺麗な足をしていて、それなりに可愛らしい。

しかし上品なのは、そういった見かけとは恐らく関係ない。

まず、効果音が生であること。
要所々々で、全員が小さなハーモニカをくわえて吹きながら移動する。
いろんな音階を大人数で一度に吹くので、ざーっと風が通り過ぎたような感じになる。
音って空気だなあと思う。
もうひとつ、舞台装置の奥、左右にグロッケンシュピールが配置されていて、何人かの俳優がこっそり簡単なメロディを奏でたり、「魔法が解けました」と言わんばかりに、チロリーン、と鳴らしたりする。
これは非常に爽やか。
おとぎの国の雰囲気が漂ってくる。
合唱の部分もあるが、誰もつぶれたような声を出したりしないので快適。

もうひとつは、動きがしなやかであること。むやみにバタバタ動かない。
びっくり箱のようなものからパックのしましまタイツが出てきて、ひょっこり登場する様子なんか、音もたてずにやってのけて、さすが妖精、という具合だ。
ひとりひとりの演技レベルが高いのだろう。

・・・
・・・
・・・でも、

でも、それしか覚えていない。

2階席で遠かったのがいけなかったのかもしれない。
芝居がかった同時通訳をたまに聞いてしまっていたからかもしれない。
あるいは上手にできすぎていて、粗忽者は妖精の国に入れてもらえなかったのかもしれない。
はたまた、英語のリスニング能力が低すぎたのか。

ものすごく遠ーい出来事なのだ。

ひとつだけ分かる理由は、丁寧さ・こまやかさの素晴らしさ(ほんとうに素晴らしいと思う)と引き換えに、テンポが遅いからだということ。
面白いことを言っているのに、間があきすぎていて、笑うタイミングがつかめない。
英語を聞かずに、イヤホンの通訳に聞き入っている観客が3分の2ほどいるから、すっかりタイミングもずれて、なおさら誰も笑わない。
これは悲しい。

他にも理由はあるかもしれないが、舞台と客席の間にあそこまで厚い壁がある『夏の夜の夢』というのも不思議だ。
パリのアトリエ・ベルティエでの公演なんかは観客に混ざりたくて仕方がない、という演出だった。

いつかもう一度、本拠地ウォーターミル劇場で観てみたい。
絶対に、どこか違った高揚を感じられるはずだ。